原木栽培の作業【ほだ起こし】
2025/10/11
皆さん、椎茸の原木栽培というと、どんな作業を思い浮かべますか?
実は、収穫の裏にはあまり知られていない、とても大切な工程がたくさんあります。今回はその中から「ほだ起こし」という、美味しい椎茸を育てるための重要な準備作業をご紹介します。
1. 長い眠りから、いざ収穫の舞台へ
下の写真をご覧ください。山の斜面に帯状に組まれているのが、椎茸の菌を植え付けた原木です。 (10本のライン状のものです)
これは約1年半前(昨年の3月頃)に菌を植え、椎茸菌が木全体にしっかりと広がるように「伏せ込み」という状態で寝かせていたものです。
そして、いよいよ収穫の準備が始まります。
この眠っていた原木たちを起こし、椎茸が発生する場所へと移動させる作業、それが「ほだ起こし」です。
▼動画で見る「ほだ起こし」
動画をご覧いただくと、1年半の歳月で原木に草が絡みついているのが分かります。また、菌が元気に蔓延した証拠に、原木同士が菌糸でくっついて一体化していることも。
面白いことに、椎茸菌が木材の成分を栄養にして成長しているので、十分に菌が回った木は驚くほど軽くなっているんですよ。運びやすくなるのは、私たちにとっては嬉しい変化です。
今年は良く椎茸菌が原木内に蔓延していて良い状態のようです。
2.「ほだ場」へお引越し
運び出した原木は、運搬車からトラックに積み替え、ここから車で20分ほどの栽培場所へ移動します。 下の写真は、2025年10月11日現在の様子です。右側にあった原木の列がなくなり、運び出されたのがお分かりいただけると思います。
ここで少し専門用語をご紹介します。
●榾木(ほだぎ):椎茸菌が十分に蔓延し、椎茸が発生する準備が整った原木のこと。
●ほだ場:この「榾木」を並べて、椎茸を発生させ、収穫しやすくした専用の場所のこと。
3. 美味しい椎茸のためのステージ作りと、受け継がれる想い
「ほだ場」では、地面に木の杭を打ち込み、鉄線を張って、運び込んだ榾木を一つひとつ丁寧に並べていきます。これから美味しい椎茸がたくさん出てくるための、大切なステージ作りです。
秋はきのこのシーズンですが、原木栽培の椎茸の収穫が最も盛んになるのは春です。
秋に収穫できる品種もありますが、私が栽培しているのは主に春に発生する品種です。そのため、11月下旬に少し収穫できる程度でして、本格的な収穫は来年の3月以降となります。
下の写真は今回の「ほだ場」です。道沿いの杉林の中にあります。
ほだ場から8kmほど山に登ったところがほだ起こしの場所です。
この様に並べていっています。
秋の日は短く、山は17時を過ぎるとあっという間に暗くなります。ヘッドライトの灯りを頼りに作業を続けることもしばしばです。
私自身、まだまだ生産技術を一つひとつ学んでいる最中です。このように作業を進められるのも、根気強く教えてくださったベテランの生産者の先輩方や、今こうして力を貸してくれる多くの皆様のおかげに他なりません。
そして、この技術は単に個人のものではなく、ここ大分県が古く「豊後国」と呼ばれた時代から、先人たちが知恵と経験を重ねてきた、まさに文化の継承でもあります。
この歴史ある技術と、人と人との繋がりを未来へ繋いでいけるよう、これからも感謝の気持ちを込めて椎茸づくりに励んでまいります。 これからこの「ほだ場」で顔を出す椎茸たちを、どうぞお楽しみに。